APEC CEO Summit 2023 USA 概観⑤ ~GDP4位転落の真実~

これまで連続で投稿させていただいたAPEC(アジア太平洋経済協力)およびCEO Summit、今回が最終回となります。

政治も一つのインナーサークル

今回APECがサンフランシスコで行われるという時機的な幸運もあり、日本の政治家の方との意見交換を含めた様々な機会を頂戴しましたが、政治とはビジネスをも包含した世界のダイナミズムを創り上げていることが改めて感じられました。これはシリコンバレーのエコシステムとはまた別のインナーサークルでもあり、ビジネスほどダイレクトではないものの、中心に近づくにつれて政治とビジネスは不可分の切り離せない存在であることが分かってきます。

私がこのような場に初めて興味を持ったのはダボス会議でした。そこに参加したグロービスの堀さんが世界の要人が集まる場の様子を発信していたものをたまたま目にしてから興味を持ち、多くの情報がアクセス可能な形で公開されていることを知り、色々と目を通しました。そこでは毎年のように参加するからこそ出来た知人や小さなグループのような話が出てくるのですが、それこそが参加における最も重要な価値であり、純粋に現地体験を面白いものにしてくれるエッセンスであると思います。そしてなぜ堀さんが毎年参加されているのか、今ならその意味がようやく分かる気がしました。

私が好きなGlobis堀さんのダボス会議のレポート↓↓

https://globis.jp/article/57759

※勝手にリンク貼ってすいません

CESやDisruptといったテックイベントやビジネスイベントはもう少し日常のビジネスとのつながりが濃く、目的が直接的な印象を持っており、適切な例か定かではありませんが、私はこれを「ビジネス書」の位置づけと重ねて捉えてます。駐在員の方であれば、参加レポートを書くこと自体が目的だったり、そこで営業的なネットワーキングを行うことも大切なミッションではないでしょうか。

一方で、APECやダボス会議などハイレイヤーの参加者が多いよりクローズドなグローバルカンファレンスは、上記とは少しタイプが異なる、よりインダイレクトで目的が情報収集の外に置かれているようなイベントという理解です。前者がビジネス書であればこちらは「小説」。ここではより巨視的な物事の見方が求められ、企業の個別の活動以前に国家、あるいは地球の一員としての在り方や考え方が問われる場ではないでしょうか。

"社交界" の雰囲気漂うパーティ会場。ドレスコードにも厳しい

“社交界” の雰囲気漂うパーティ会場。ドレスコードにも厳しい

“駐在 = バケーション” と表現したアメリカ人

様々な交流を通じて殊に感じるのは「日本は能力不足ということは全くない」ということです。経済停滞や新たなスタートアップ勃興がなかなか起こらない現状に対する悲観的な声は多いですが、それは能力によるものではないと強く感じます。シリコンバレーで出会う日本のスタートアップ起業家は非常に優秀です。しかし、国単位で見た場合に特にアジアからは若い人からかなり年配の人まで多くの人がアメリカに押し寄せ、長期に渡って在住して経済活動を行っているのに対し、日本人は数が少ないと強く感じます。CESやDreamforceなど特定の場所には多いのですが、いわゆる期間限定の駐在員としてではなく長期でシリコンバレーで「個」で勝負しようとしている人、会社の看板でなく個人で顔を広げている人、現地で学位や修士などの高等教育を受ける人など、一言で述べれば「ローカライズ」しようとしている人がまだまだ少ない状況です。

APEC期間中、日本に駐在経験もあるアメリカ人の方と話をしました。彼に日本でのビジネス経験を聞いたところ、非常に興味深い表現で日本駐在を教えてくれました。

「日本で過ごした数年は素晴らしかった。街はキレイ、食事は美味しいし、人も優しい。でも(自分が過ごした)3年以上はいたくない。日本でのビジネスは多くのアメリカ人にとっては一時的なバケーションなんだよ。

普段アメリカにいる日本人駐在員のことは話題に上がりますが、この発言を機に日本にいる外国人がどのように見られているのかを考えました。例えば、日本の中でもかなり保守性の強い金融業において、現在PayPal Japanの代表であるPeter Kenevan氏は元McKinsey Japanに所属、日本語が非常に堪能な方でもあり日本ビジネスに精通しています。もちろん例外もたくさんありますが、外資系のトップが非日本人経営者を現法社長に据える時、日本の滞在経験を重視しているように思いますし、そのような人材が少ないため海外ビジネス経験が豊富な日本人がアサインされることも多い印象です。

なぜ日本企業の多くは、駐在員を3年程度でローテーションするのでしょうか。これは多くの海外の知り合いから常に質問され、返答に困ることでもあります。少なくとも、私に体験談をしてくれた前述のアメリカ人は日本の駐在員を「バケーション期間中」と見ています。駐在制度には各社それぞれの事情や戦略があると思うので私はここでの評価を差し控えますが、太平洋の反対側から「日本にいるアメリカ人駐在員」を客観視することで見えることの多さに驚きました。

GDP4位への転落とドイツに抜かれる真の意味

APECに際して、日本からも岸田総理大臣を始めとして政府要人が訪米されていました。私も北カリフォルニア日本商工会議所のメンバーとして彼らにお会いし、お話する機会がありました。

11/12に行われた矢倉財務副大臣との意見交換会の中で、何か日本政府に対してお願いはないですかと問われた際に、「お願いではないが、どうすれば明治維新や太平洋戦争直後のような危機意識を国家として共有できるのかを一緒に考えていきたい」と伝えました。失われた30年が始まったポイントを敢えて挙げるなら、私としては「日本が1989年にニューヨークの象徴とも言えるロックフェラーセンターを買収した時」と考えます。この瞬間、日本は悲願ともいえる世界の1位とも呼べる位置に上り詰め、黒船到来から始まった西欧に追いつくという経済および安全保障上の目標を達成し、同時に次の目標を見失ったのだと思います。

“三菱地所、ロックフェラーグループを買収”:https://maonline.jp/calendars/1504

一方のアメリカはソ連、日本、そして中国と常に脅威にさらされる中で、その防衛本能を活かすような形で発展を続けているように思います。アメリカにいると、常にアメリカが中国やロシアなどを警戒し続けていることが感じられ、その防衛意識が国家成長の必要性を形成しているように思います。また、中国やインドの方々と話をしていると、戦後の日本が持っていたような上昇志向というか強烈なパッションやエネルギーを感じます。韓国の近年のエンターテインメント領域の成功も小さい国内マーケットというデメリットや危機意識から長年取り組んできたことが、SNSの力をうまく活用して一気に開花した側面があります。

少なくとも、今の日本にはここまでの危機意識もパッションやエネルギーもないのではないしょうか。それがそもそも必要なのかも定かではありません。これは中産階級だけで1億人という世界でも類まれなる安定した人口及び経済基盤をもった日本が陥った罠と呼べるかもしれません。

少し前にIMFから衝撃的な発表がありました。それは、日本の2023年のGDPがドイツに抜かれ4位に後退するという見通しです。同発表の中では、2026年までにインドに抜かれて5位に後退するとも述べられています。(ちなみに、2027年にドイツもインドに抜かれると同レポートでは予測されています。)

このGDP数値はドルベースであり、今の円安がある程度数値に影響している側面があります。ドイツのインフレ率は日本より高く、ユーロの対ドル換算レートも強いため、これらが相互作用した結果という説明もつけることは可能です。他方、あまり報じられない重要な事実の1つとして、ドイツは人口において日本の2/3程度 (約8,320万人、2021年)ということです。アメリカも中国もインドも、言ってしまえば人口大国であり、日本は「少子化による人口減」を経済停滞の “言い訳” に出来ていたのですが、対ドイツの文脈においてはそれは使えません。これは一人当たりGDPを比較すれば説明がつくのですが、ドイツが5万ドルを超えているのに対し、日本は4万ドルを割っています。

この事実がどの程度日本で報道および議論されているか、私には定かではありませんが、少なくともあまり目にしませんでした。一方で、OpenAIのサム・アルトマンの退任や携帯通信をめぐる X(旧Twitter) 上での言い争いなどはアメリカにいても目にするほど日本のメディアを連日賑わせているようです。たしかに後者は報道としては刺激的ですが、多くの日本人にとってどこまで重要かは疑問が残ります。

終わりに

今回の一連の投稿では、APEC CEO Summitから見えるアメリカを中心とした政治・ビジネスの舞台がどのようなものかを私の目というフィルターを通じて述べさせていただきました。ここには私の価値観や偏見が多分に含まれていることをご理解いただくと同時に、反対意見も含めて読んでくれた皆さまが何かを考え始めるきっかけになればと思っています。

もちろんここで書き切れていないセッションの様子などもあります。個人的にはCanvaの創業者であるMelanie PerkinsのFireside Chatを最前列で聴けたことが最大の思い出です(笑) 司会の「Canvaは今、競争大変でしょ!?」という問いに対して、「実は全然そういう風に思っていないの」という一連の会話が非常に印象的でした。

 

バイデン大統領のセッション直後のFireside Chatに登壇したCanva創業者のMelanie Perkins

バイデン大統領のセッション直後のFireside Chatに登壇したCanva創業者のMelanie Perkins

これらを含め、本トピックなどについて議論していただける方がいれば、ぜひコーヒーを飲みながらお話しましょう。

計5回、お付き合いありがとうございました。大山

著者: 大山 哲生 役職:Skylight America Inc. CEO 略歴:​大手旅行会社を経て、2007年にスカイライト コンサルティング参画 アメリカ・インドなど海外コンサルティング案件や事業開発に数多く携わった経験を活かし、現在はSkylight Americaの代表として海外関連のコンサルティング事業拡大をリードする。得意領域はプロジェクト型での事業リードと新規事業開発。

著者: 大山 哲生
役職:Skylight America Inc. CEO
略歴:​大手旅行会社を経て、2007年にスカイライト コンサルティング参画

アメリカ・インドなど海外コンサルティング案件や事業開発に数多く携わった経験を活かし、現在はSkylight Americaの代表として海外関連のコンサルティング事業拡大をリードする。得意領域はプロジェクト型での事業リードと新規事業開発。