APEC CEO Summit 2023 USA概観④ ~空気を読み誤った日本!?~

連投させていただいているAPEC CEO Summitネタの第4弾となります。
当初は最終回の予定でしたが、少し内容が膨らんだため2回に分けて書かせていただきます。

VIPが創るクローズドネットワーク

これは私が現在進行形で考え続けているテーマでもあるのですが、「日本の世界におけるプレゼンス低下は実際に起こっているのか」、という点に少しスポットライトを当てたいと思います。
今回のAPECだけでなく、私が実際に参加したことのあるイベント、多くの参加者の情報を聞く機会があるアメリカを中心としたグローバルカンファレンスやイベントでは、いわゆる本体セッション以外に多くのサイドイベントが行われており、その代表的なものはディナーパーティのようなものです。

会議場からディナー会場まで移動するリムジンバス

会議場からディナー会場まで移動するリムジンバス

例えば、2ヶ月ほど前にAPEC CEO Summitと全く同じ会場で行われていたTech Crunch Disruptというイベントでも毎晩のようにディナーイベントが行われ、チケットホルダーは無料参加できるようになっていました。いわゆるグローバルなビジネス会議はそれ自体をコアとして、周辺に観光のようなコンテンツも含めて様々な催しを付加することで遠くから足を運んで訪れるインセンティブを用意し、これは世界のスタンダードとなっています。特にサンフランシスコの大型テックイベント期間中は、裏でVCが敢えてアンチテーゼ的なクローズドなイベント開いているなど、様々な交流が活性化する時期となります。

CEO Summitの中にもランクがあり、会議場の前方はVIP用となっており、白く柔らかい特別席が用意されています。

VPしか座れない前方の座席

VPしか座れない前方の座席

どうすればVIPになれるのか分かりませんが、ここでは非常にクローズドなネットワーキングが行われています。セッション間のブレークタイムにて、このVIPエリアで参加者間で紹介を行っている姿をよく目撃するのですが、同日に講演していたトップ企業CEOや各国要人がそこにいることも多く、わずか10mほどを隔てて全く別世界が展開されています。これが別室とかでなく目に見えるオープンな形で場所が用意され、参加者が届かないけど目にするような演出はアメリカっぽいなと感じる部分です。
今回の会期中、そこに日本を代表する企業のCEOや日本企業関係者は残念ながら見ることはなく、少し残念というか物足りなさを感じました。

VIP席で行われるネットワーキング (中央女性は直前に講演を行っていたCiti Group CEOのJane Fraser氏)

VIP席で行われるネットワーキング (中央女性は直前に講演を行っていたCiti Group CEOのJane Fraser氏)

当然ながら日本の一流企業は各社独自の関係構築を世界の一流企業と行っており、それを過小評価するつもりもありません。誤解を恐れずに言うと、会議室で行われる人間関係構築が日本の大手企業は主戦場としているのではないでしょうか。それに対して、ここはもう少し野戦状態というか、良くも悪くも準備されていない生の個人として相手と交流する機会があります。本イベントに限ったことではありませんが、予定調和や明確な目的、更に言えばプレゼンテーション資料の準備がない中でビジネストークを行う場で日本は急激にプレゼンスが下がるような印象をもっています。日本を代表する企業の経営者達もこのようなセレンディピティ的な出会いがメインとなる社交の場への参加が増えると面白いのではないか、と期待します。

不文律が存在するビジネス社交界

このような場所に参加する機会が増えるにつれて、その場に様々な不文律があることに気づきます。それはドレスコードに始まり、会話トピックの選び方といったものから、ごくわずかな「エリートが行う所作」の違いや立ち振る舞いの見せ方、そして他グループへの会話への混ざり方や抜け方も含め、決して明文化されないルールが存在します。

私も現在これらのことを試行錯誤しているところですが、非常に興味深いことに特定の所作をすると向こうから興味を持たれて話しかけられる機会が増える、ということが実際にあります。敢えて言葉にするのであれば、「あいつ、なんか違うな。面白そうだな」というオーラとでも言いますでしょうか。これは実はオーラではなく、ゆっくりとした動作や立ち方、ちょっとした服装や目線などで創り上げられることが分かってきました。
そして、様々なバックグラウンドや興味・関心の人と会話をすると、会話を着飾る限界が当然のことながら出てきて、丸裸な自分で勝負せざるを得なくなります。ある程度は付け焼刃の準備でもいけるのですが、関係を深化させようとすると砂上の楼閣は簡単に崩れてしまいます。私は人間関係における段階を越える際に初めて、ビジネスパーソンは「教養」が求められるのだと感じました。

よく、外国での会話を通じて「自分の知識のなさを痛感した」という日本人のエピソードを耳にしますし、一時期は私も同じ思いをしたことがたくさんありますが、最近の私は少し違う捉え方をしています。もちろん知識の継続的なInputやアップデートは必要だと思いますが、社交界ではこれらを「どのような切り口で話せるか」といったストーリー性や表現力が求められると感じました。外国人の中にはこれが非常に上手い方がおり、そのような人の回りには多くの人だかりが出来ています。これはどの程度鍛えることが出来るのか分かりませんが、「教養における知識不足」に焦点を当てすぎている風潮もある中、今の自身が持つ知識を十分と捉え、それをいかに有効にOutputするかに考え方を変えても良いのではないかと思います。

日本はグローバルでは空気が読めない!?

目的志向ではなく、無駄や余白もたくさんある雑談やカジュアルなコミュニケーションを重ねるからこそ見える世界の常識のようなものが存在すると思っています。それらは繰り返しになりますが「不文律」のようなもので、世界の常識といっても明確な白黒があるようなものではありません。しかし、小さな会話の積み重ねの中から情報が集まる中でアンテナの感度が上がり、帰納的に「これはおかしいんだな」というのが分かってきます。

それを象徴する1つの出来事が11/15の午後に起こりました。

APEC CEO Summitの会場には、小規模ながらMicrosoftやSalesforceなど極めて選定された企業の展示ブースが2階にあり、そこに日本のJETROも出展し、 “Japanese Seafood” と題したPRを行っていました。11/15の午後、そこに訪米中の西村大臣が訪れ、PRしているところにたまたま通りがかるという偶然があり、日本の関係者以外は周りにいなかったのでかなり近づいてみることができました。

JETROのJapanese Seafoodと題するブースで試食パフォーマンスをする西村大臣

この日はそれで何事もなく終わったのですが、翌日のランチの際に他国の方と話をしており、トピックが日本の福島原発における海洋への排水処理に及び、それについてどう思うかと問われました。私は「このケースについて科学的な観点で許容可能か否かが自分では判断できないから、立場は保留にしている」と伝えたのですが、そこでふと前日のことを思い出したので「そういえば昨日、日本の大臣がJETROのブースでJapanese SeafoodをPRしていた」と伝えました。その瞬間、相手の表情が一瞬変わり、なんとなく苦笑いをしたように見えました。そして、私もその意図が分かりました。

私の考えすぎな部分もあるかもしれないと前置きをさせていただいた上で、この大臣による試食PRという行為が世界の中でどのような捉えられ方をする可能性があるのか、少し述べさせていただきます。

今回のAPECのコアテーマはこの連載の①②あたりでも述べさせていただいている通り、米中を軸に進行している世界の分断を埋めることで、その象徴として米中首脳会談と、そこで強調された両国による対話の重要性にあります。この大きな流れをレンズにして日本の試食PRを見た時に世界にはどのように映るのかをちょっと考えてみましょう。
まず、日本という国家を背負う組織や大臣として食の安全性をPRするのはタイミングとしても当たり前であり、十分理解できます。一方で、今回のAPECの米中を基軸とした「分断を緩和する」という世界の大きな流れにおいて、この食のPRはメインストリームなのか逆流なのか、という問いがあります。そして、おそらく後者でしょう。日本の政府関係者はAPECが形成する世界の流れ、そこで食のPRをする意味や意義、それがもたらす反応やリスクを全て包括的に考慮・理解した上での行動であったのかは純粋に興味があり、知りたい部分です。なぜならば、これこそが政治や外交そのものであるからです。
今回、日本のAPEC参加自体が世界各国ではあまり注目を浴びていなかったが故に中国を始めとする各国では大々的に報道されていないかもしれませんが、グローバルポリティクスの文脈においてかなりセンシティブな領域に踏み込んだ行動だったのではないかと感じます。それと同時に、個人的にも改めて政治の難しさおよび繊細さを考えさせられるきっかけとなりました。

(最終回に続く)

著者: 大山 哲生 役職:Skylight America Inc. CEO 略歴:​大手旅行会社を経て、2007年にスカイライト コンサルティング参画 アメリカ・インドなど海外コンサルティング案件や事業開発に数多く携わった経験を活かし、現在はSkylight Americaの代表として海外関連のコンサルティング事業拡大をリードする。得意領域はプロジェクト型での事業リードと新規事業開発。

著者: 大山 哲生
役職:Skylight America Inc. CEO
略歴:​大手旅行会社を経て、2007年にスカイライト コンサルティング参画

アメリカ・インドなど海外コンサルティング案件や事業開発に数多く携わった経験を活かし、現在はSkylight Americaの代表として海外関連のコンサルティング事業拡大をリードする。得意領域はプロジェクト型での事業リードと新規事業開発。