APEC CEO Summit 2023 USA概観② ~世界が2大超大国を認めた瞬間~

先週はサンフランシスコにてAPEC(アジア太平洋経済協力)およびCEO Summitが行われており、地元 (といっても会場まで1時間近く) 開催でもあったので初めて参加することにしました。


既にメディアから多くの記事が出ておりますが、現場ならではの温度感をお届けできればと記事を作成することにしました。
今回はその第2弾です

アメリカが中国を認めた

APECを通じ、世界各国の首脳に関する発言や報道、そして会合等が日夜行われる中で、アメリカが中国を「特別扱い」していることは誰の目にも明らかでした。今年に入ってから現地でもAPEC関連の話題が上がることが増えてきたのですが、その中心は「習近平氏は訪米するのか?」というものでした。これは現地人に限ったことではなく、日本人の間でも同様で、それだけ世界の関心が米中首脳会談の実現に向けられていたということです。

 米中首脳会談のロケーション発表があったのは、会談の数日前。それは私が住むサンマテオというカウンティ(郡)の一角で行われたのですが、その瞬間からものすごい量の交通規制等に関するアナウンスが飛び交い、アメリカにとってどれほど重要な出来事なのかというのを感じざるを得ない状況でした。

米中首脳会談の場所は観光施設!?

 実は米中首脳会談が行われた場所には私も今年に入って行ったことがありました。280というアメリカ一景色が美しいハイウェイと言われている高速道路の近くで我が家から車で10分ちょっとの場所なのですが、周りは農場、森、湖に囲まれた自然豊かな場所で、普段は一般入場が可能な単なる(?)庭園施設です。犬の入場が許可されていない場所のため、中には入らず入口を見て帰ったのですが、まさか半年後に世界のトップが会談をするとは誰も思っていなかったのではないでしょうか。

当時、写真は撮っていなかったので、場所のリンクのみ

 

Filoli | Historic House & Garden

米中対立は “新冷戦” なのか

 CEO Summit内の複数のセッションの中において、 “the Cold War(冷戦)” や当時の相手国であるソビエトの話がしばしば登場しました。現在ロシアとウクライナが紛争状態であること、イスラエルを中心に中東での紛争が激化している状況もあり、冷戦の脅威を呼び起こす材料が多く世界に溢れ、そこに中国が加わって世界の混沌が深まっていくのではないかという懸念が強く表明されました。

 しかし、イアン・ブレマー氏を始めとし、今の米中関係を冷戦になぞらえつつも今の中国が当時のソビエトとは比較にならない超大国であることが改めて強調され、冷戦という言葉は今を表現する言葉として適切でないと述べられました。具体的な理由として、当時のソビエトは安全保障上 / 軍事上の脅威ではあった一方で経済やテクノロジーに関してはアメリカに全く及ばなかったのに対し、中国は全ての面でアメリカに比類しうる存在であるというのが1つ。同時に、中国自身が貿易を始めとした世界経済から多くの恩恵を受けており、破壊よりも安定や調和に利害を見出すため、世界と協調路線を取ることは可能であるというものでした。だからこそ、アメリカは対立ではなく対話と協調の道を早くから模索し、今後も経済摩擦やテクノロジー分野での競争は間違いなく激化する中で、それが安全保障上の問題に発展しないよう牽制する形を取ったのです。
 

「日本はいいから中国の話をさせてくれ!」

 最終日のランチ時間に行われていたAsia Society of Northern California主催のロングセッションで象徴的な一幕がありました。様々なスピーカーが出入りするのですが、終盤のほうでプレゼンターをしていたCooper Abbott氏が対話相手のKen Wilcox氏に対して、「今後日本が迎える挑戦と、それに対してどうするべきかを教えてください」と話を振りました。それに対してWilcox氏の答えは「日本の話ではなく中国の話をさせてくれ」と話題のスイッチを申し入れました。途中、私は席を外していた時間もあったため厳密な文脈は理解しきれていない部分もありますが、聴衆に日本人はほとんどいないのに対し中国人と思われる参加者は目立ちました。実際に聴衆の多くにとっては日本の将来よりも中国の将来に対する関心のほうが高かったのではないでしょうか。

まさにWilcox氏が同発言をした際の会場 (ランチ時のセッションは会議室でなく3階のオープンスペースで開催された) 先日、Timeでファーストリテイリングの柳井

まさにWilcox氏が同発言をした際の会場 (ランチ時のセッションは会議室でなく3階のオープンスペースで開催された)

先日、Timeでファーストリテイリングの柳井氏が「日本はもはやトップではない」という旨の発言をし様々な議論が起こっていますが、日本から離れた場所で多くのビジネスや政治経済の関係者と交流すると、このことは強く感じさせられます。今回のAPECを通じ、日本も中国や韓国との会談を通じて政治的な目的を達成したと思います。しかし、それはグローバルな観点で見れば完全に個別の施策であり、世界経済に影響をなんら及ぼさないものでもありました。これは日本に限ったことではなく、米中を除いた全ての国家に共通して言えることではあるのですが、米中に次ぐGDP3位の国の世界的なプレゼンスであることを考えると少し寂しいところです。

柳井氏のTime記事

https://time.com/6333659/tadashi-yanai-uniqlo-japan-profile/

世界は2大超大国の時代へ

第二次世界大戦の終わりと同時に始まった米ソ冷戦は長らく2つの超大国が異なるイデオロギーと共に世界を牽引していく状況を作り、1991年のソビエト崩壊により、その後30年間はアメリカが世界の警察としての役割を果たす1国の超大国による支配の時代に突入します。今後、歴史を振り返った時にこれが再び2大超大国による統治に切り替わったターニングポイントはまさに今なのではないでしょうか。少なくとも、今回APEC現地で感じた中国のプレゼンスやアメリカ政府の扱いは恐怖も入り混じった対等な扱いそのものでした。

 前述しましたが、中国はソ連とは比較にならないほど大きな存在です。軍事力も保持した上で、今後の経済を牽引するAI領域においてもアメリカに勝るとも劣らないテクノロジーの進化を見せています。何よりも国内に10億人を超える巨大市場を抱え、さらにその周辺に15~20億人の東~南アジアという地理的に容易にアクセス可能な市場が存在します。唯一の懸念はアメリカが大統領に権限集中させつつも厳密な牽制機能を有し、国家元首の変化で国がそこまで浮き沈みしない安定した国家統治システムが確立されているのに対し、中国のそれは未だ不安定さを有し、今後の政権交代には多くの民主主義国にはない不確実要素を孕みます。

米、中、そして印の台頭へ

 また、首相を始めとする要人の参加は目立たなかったものの、多くの方が意識していたのはインドです。実際に多くのインド人が参加しており、私も何人かと話をしましたが、その多くがインドから来たのではなく在米だったことが特徴的でした。数々のセッションにおいてもインドが持つ人口、IT人材、そしてそれを生み出す優秀な教育機関の台頭、そして何よりも地政学における中国との関係に各国が注目しているのが強く感じられました。

 私が直接参加したセッションだけでもインド出身のCEOの登壇は非常に目立っていました。GoogleのPichai氏、MicrosoftのNadella氏、FedExのSubramaniam氏のセッションに参加しましたが、いわゆる「インド訛り」の英語ではなくアメリカ英語を話していたのが印象的で、アメリカで教育を受けて育ったのがよく分かります。

バイデン大統領のスピーチ直後に行われたFedEx CEOのRaj Subramaniam氏のFireside Chat (最前列に座れた)

バイデン大統領のスピーチ直後に行われたFedEx CEOのRaj Subramaniam氏のFireside Chat (最前列に座れた)

晩餐会でも多くのインドの方々と話したのですが、その特徴はやはりアメリカで高等教育を受け、現地の企業で働いているというところです。特にサンフランシスコという場所柄、ITが大きな産業群を形成しており、エンジニアをバックグラウンドとしてキャリア形成に成功したインド出身のビジネスパーソンが多く、同エスニシティは完全にビジネス界の大きな一部を担っています。何千~何万人といる彼らの一部が母国に戻り、Flipkartのような地元で成功した新しいスタートアップを創り上げていくサイクルが既に出来上がりつつあるのです。

11/14 初日に市内のAsian Art Museumにて行われたOpening Receptionのエントランス

11/14 初日に市内のAsian Art Museumにて行われたOpening Receptionのエントランス

日本でもシリコンバレーに1,000人起業家を送る、などといった様々な取り組みを経産省らが始めています。現段階でこれらのアクションを評価することは差し控えますが、中国やインドといった世界のトップとして台頭する国々ではよりダイナミックな人の動きが起きており、このダイナミズムには政治とビジネスが極めて複雑・密接に絡み合っているのが、比較的 “官” 主導でモメンタムを作ろうとしている日本と比較した際に大きな特徴ではないかと思います。

経産省がリードする「始動プロジェクト」:https://journal.meti.go.jp/p/27174/ 

次回はその日本について、現地で感じた現在地について述べたいと思います。

著者: 大山 哲生 役職:Skylight America Inc. CEO 略歴:​大手旅行会社を経て、2007年にスカイライト コンサルティング参画 アメリカ・インドなど海外コンサルティング案件や事業開発に数多く携わった経験を活かし、現在はSkylight Americaの代表として海外関連のコンサルティング事業拡大をリードする。得意領域はプロジェクト型での事業リードと新規事業開発。

著者: 大山 哲生
役職:Skylight America Inc. CEO
略歴:​大手旅行会社を経て、2007年にスカイライト コンサルティング参画

アメリカ・インドなど海外コンサルティング案件や事業開発に数多く携わった経験を活かし、現在はSkylight Americaの代表として海外関連のコンサルティング事業拡大をリードする。得意領域はプロジェクト型での事業リードと新規事業開発。