Part1では女子サッカーW杯2023がオーストラリア & ニュージーランド (以下、ANZ) に決まるまでのFACTを中心に整理しました。
今回は、その決定に重要な影響を及ぼした様々な要因について深く分析していきたいと思います。
if 日本が投票に進んだら。。。
歴史に「もし」はありませんが、仮に日本が投票に進んだら何が起こったのか。「大敗が見えていた」という声もある一方、日本以上に中間報告書のスコアが低かったコロンビアは結果的に有効投票35票のうち1/3強にあたる13票を獲得しました。
また、JFAの撤退コメントにも出ている「ASEAN」のANZ支援。ASEAN10ヶ国がANZ支援に回った影響を挙げる声も多いですが、果たしてどうなんでしょう。簡単にまとめましたので実際の最終投票結果を見てみましょう。
完全に大陸で投票が割れています。コロンビアの13票は、全ての南米(CONMEBOL)とヨーロッパ(UEFA)の理事がコロンビアに投票したことを意味しています。唯一の例外として、UEFA所属国から1票だけANZに投票されていますが、これはFIFA会長であるスイス人のインファンティーノ氏によるもので、ヨーロッパ票というよりもFIFA会長としての立場からの投票の色が強いと考えられます。試合の放送時間、周辺観光などの経済波及を考えると組織票になるのは頷ける一方、ここまであからさまな結果はやはり衝撃です。中間報告書のスコアとは一体なんなのか?(※得票数が同じ場合、こちらのスコアの高い方を採用する、というのがFIFAの規定として存在します)
ここに日本が参画すると、ANZが獲得する22票が割れる可能性があります。そうするとコロンビア逆転の芽がないわけでもない一方、Point最下位の国に決まるというのもおかしな話。ここからおそらくFIFA全体を巻き込んだ政治的駆け引きが行われ、日本はAFC副会長という地位にありながら権利を譲るという幕引きに至ります。
なぜ “ASEAN” が重要だったのか?
さて、ここで “ASEAN” に目を向けてみましょう。AFC加盟国でW杯開催地投票の権利を持つFIFA理事の内訳は、東から日本(田嶋JFA会長)、中国、フィリピン、バングラデッシュ、インド、バーレーン、カタールです。
ASEANサッカー連盟 (ASEAN Football Federation)に加盟するのは12の国と地域で、上記で該当するのは実はフィリピンのみです。得票という観点ではわずか1票しか意味のないASEANにJFAが敗因として言及する意味、どうやら単純な票そのものではなさそうです。更に掘ります。
オーストラリアがASEAN !?
ASEANサッカー連盟を詳しく見ると興味深いことが1つ出てきます。なんとASEAN諸国ではないオーストラリアが2013年に12番目の国として加盟しています。詳細を見ると、東南アジア内の試合や優秀選手の選出にはオーストラリアは参画しておらず、より政治的な加盟の位置づけの強さが想像されます。とはいえ、アジア内でどこかのリージョンに所属することになった場合、地理的に最も近いのは東南アジアであり、加入は自然な流れでもあります。また、こちらはよく知られていますが、オーストラリアは今でこそAFC加盟ですが、かつてはOFC (オセアニアサッカー連盟) 加盟国で、2006年にAFC転籍しています。
このOFC → AFC転籍は何度かFIFAから拒否された経緯があり、同国のサッカー連盟は自国政府との結びつきを強化することで国際的なLobby活動を展開し、ようやくAFC加盟を勝ち取ったという経緯があります。すなわち、オーストラリアは東南アジア ~ オセアニアまでと広いパイプを持ち、かつその過程でFIFAにおけるLobby活動のノウハウを獲得した類を見ない国なのです。
ASEANの女子サッカーはまだまだ発展が遅れている一方、域内では経済成長と女性の社会進出が進み、その抱える人口の大きさからFIFAとしてASEANは非常に魅力的な”Next Market”であり、FIFAが進める世界的なサッカー普及のロードマップとも親和性が高いのです。そのASEANに賛同コメントを出させるという演出により、相応しい開催国というアピールを強烈に推し進めました。
しかし、日本も東アジアサッカー連盟に所属しており、そこにはASEANにフィリピンがいるのと同様、中国が投票権を持っています。中国は単体で10億人のマーケットであり、女子W杯の第1回と5回を開催する実績ある国でもあります。その中国のサポートは日本にとって非常に大きなもののはずです。しかしJFAの撤退コメントから推察するに、日本はその中国を味方につけることに失敗し、東アジア”すら” 一本化することにロビー活動として失敗したという構造が見えてきます。周りのライバル達は次々と周辺国と手を組み始める中、日本は本来強力な仲間となり得た周辺国を味方に付けれなかったのではないでしょうか。これこそが日本サッカーが今後W杯を誘致するにあたり絶対に見直すべき部分かと思います。
ASEAN側の狙い
ではAFF(Asean Footbal Federation)の狙いは何か。比較的加入の浅いオーストラリアを熱烈に彼らが支持するにはもう少し理由が欲しいところです。当然、放送時間は南米開催より有利ですが、それなら日本でも良いわけです。ましてや、日本もサッカーを通じた東南アジア諸国の強化面などへの貢献は大きいです。現役の本田選手のカンボジア監督就任、西野前日本代表監督のタイ代表監督、ユースレベルにも人材を投入するのと同時に、Jリーグにもタイ選手が何名もスタメンでプレーするなど、関係は良好に思えます。
ASEANが重視したと思われる最大のポイントはW杯招致と思われます。それは、2023年の女子W杯ではなく2034年 or 2038年にアジア開催の可能性が高い男子W杯です。ますます商業的側面が強くなるW杯は参加国増加の一途を辿っており、それは1ヶ国単体での開催ハードルを高め、共同開催という路線を生み出しつつあります。実際に2026年のW杯は米・加・メキシコの3ヶ国開催と参加国が32 → 48ヶ国拡大が2018年までに決定しています。これを2034年に最大域内10ヶ国前後で実現させること、そこでの後ろ盾としてオーストラリアというオリンピック含めた大規模スポーツイベント開催実績国を味方に付けようとした、と考えます。このAFFとしてのオーストラリアへの支持表明の裏には、自分たちは一枚岩であり、将来的な開催地候補としての資格を十分に備えている、というPRも含まれています。
実際に下記の記事には、2034年のW杯招致のためにオーストラリアに接近したいASEANの実情が生々しく書かれています。
ここまでで日本が敗因と述べたASEANとオーストラリアのタッグ、そしてニュージーランドのタッグはFIFAの方向性に非常にマッチし、それをAFCという域内で8時間もの時差がある最大のエリアで実現することはAFCとしてもアジアサッカーのプレゼンス向上における具体的なアピールとして魅力的なものです。
しかし、結果から逆算するとその通りですが、この段階で仮にニュージーランドなしのASEAN & オーストラリアだとどうなったか。実はこれでは決め手に欠け、おそらく日本か南米が勝利したのではないかというのが私の予想です。FIFA内で強力な訴求力を持つかというと弱いのです。
個人的な意見として最大のキーはニュージーランドです。次回、それがなぜ起こったのかを書きつつ、ブラジル撤退の意味や、日本にそもそも勝つ見込みはあったのか、などに分析を進めていきたいと思います。