先週はサンフランシスコにてAPEC(アジア太平洋経済協力)およびCEO Summitが行われており、地元 (といっても会場まで1時間近く) 開催でもあったので初めて参加することにしました。
既にメディアから多くの記事が出ておりますが、現場ならではの温度感をお届けできればと記事を作成することにしました。
今回はその第3弾です。
世界の投資・貿易誘致合戦
今回アメリカでAPECおよびCEO Summitが行われた中で、参加国におけるアメリカ市場に対するスタンスや期待感が垣間見えると思っています。特に投資や貿易となると規制(緩和)や補助など様々な枠組みを作るのは政治である一方、その実行主体となるのは企業であり、直接企業のCクラスに投資などを訴えかけられる直接的な機会となるのがCEO Summitかと思います。
実際にCEO Summitの中で下記の国の元首がスピーチを行いました。(講演順)
- Anwar Ibrahim マレーシア首相
- Ferdinand Marcos Jr フィリピン大統領
- Srettha Thavisin タイ首相
- Võ Văn Thưởng ベトナム首相
- Yoon Suk Yeol 韓国大統領
- Gabriel Boric チリ大統領
- Joko Widodo インドネシア大統領
- Joseph R. Biden アメリカ大統領
- Dina Boluarte ペルー大統領
彼らはアメリカにいる経営者達に力強い言葉で自国の魅力を伝え、投資を促しました。通常はスピーチが終わるとステージの裏に戻り、別の出口から去るのですが韓国大統領は敢えて会場内を通過して出ていき、メディアを含めた多くの人だかりが出来るという素晴らしい “演出” をして会場を沸かせました。ここに日本の首相が参加できなかったことは残念です。
台頭するアジアと日本のプレゼンス
ごく簡単な調査のみですが、日本の首相のCEO Summitへの参加およびスピーチは2010年の横浜で行われたAPECにおける菅直人首相の時まで戻らなければならないようです。
菅総理の動き:https://www.kantei.go.jp/jp/kan/actions/201011/13apec.html
今回、実際にCEO Summitに参加する中で強く感じたことは日本からの参加者が非常に少ないことでした。私は本体セッションおよび夜の晩餐イベントにも参加し、様々な国の方と話をさせていただきましたが、参加者の傾向として地元サンフランシスコやベイエリアおよびアメリカ全土からの参加者、カナダからの参加者、そして台湾や香港を含めた中国からの参加者が目立ちました。もちろんそれ以外のAPEC各国からの参加者もおり、日本人も何名かの方とご挨拶する機会がありました。しかし、日系のグローバルビジネスを展開するいわゆる “大企業” はおらず、外資企業の日本法人代表もしくは海外を中心にビジネス展開している方が全てでした。
会話の中で、「なぜ日本人は全然参加していないんだ?」、「なぜ日本のPrime Ministerはスピーチをしないのか?」、そして「各国首脳が基本的に自国への投資を積極的に訴えるのに対し、日本政府は投資受入れのメッセージを発信しないのはなぜか?」といった質問攻めにあいました。このような会話を通じ、各国が日本をどのように見ているのか、そして日本のスタンスの特徴が見え、大変興味深かったです。他国は政府と共に多くの経済団体や企業経営者が同行し、国をあげてのビジネスPRやロビー活動をするというのがありますが、日本がこれほど注目するシリコンバレー(サンフランシスコ)で行われたAPECで企業側の具体的な動きがほとんど見られなかったのはどのように捉えればよいのか。参加される海外の方から突き付けられた宿題と感じました。
San Francisco Chronicleからの取材
この状況がポジティブに働いた瞬間もありました。日本からの参加者が希少であったが故に多くの方から興味を持たれたことです。11/16のランチ時に地元紙のSan Francisco Chronicleの記者にランチ中に簡単な取材を受ける機会がありました。
記者のRoland Li氏がいるテーブルにたまたま座ったのですが、軽く挨拶をする中で日本人がこういうカンファレンスで “mingle(交流する、の意)” しているのは珍しいからインタビューしていいか、と聞かれました。以下の記事の最後のほうで私の名前とインタビュー内容に触れられています。
‘Shocking to see’: Here’s what APEC attendees thought of San Francisco via San Francisco Chronicle:https://www.sfchronicle.com/sf/article/apec-san-francisco-city-18499655.php
ランチ時の様子。右が記者のRoland Li氏
インタビュー内容は前述の記事にありますが、記事以外の内容でもテーブルの他の方も交えて30分くらい話し、インタビュー以上に大いに盛り上がりました。正直、ランチ時に少し溜まったEmailを片付けようと思っていたのですが、90分間ずっと会話が止まりませんでした。
講演内容のレポートを書くなら現地に行くROIは低い
完全に個人的な意見ですが、イベント内でスピーカーが話すコンテンツ自体の価値は年々下がっているように思います。今回のAPECもそうですが、誰が何を発言したかは数時間以内にメディアが素晴らしい記事にまとめてくれます。前述のDisruptやSalesforceが行うDreamforceなどは映像や音声で多くのセッションは後から見直すことが可能です。現在流行りのAIツールを活用すれば、映像・音声コンテンツからテキスト化し、その一次サマリードラフトまで数十分~数時間で作成できてしまいます。現地に行くことの価値は否定しませんが、内容「だけ」が目的であれば企業はROIを考慮すると安価な代替手段を活用したほうが結果的に内容をしっかりと理解できると思います。具体的には、移動時間を上記のような作業に充てるだけで、全てのセッションを、それを複数回見て考える時間が確保できるはずです。
実際、カンファレンスにいくとセッションに参加せずに外で話ばかりしている人や、夕方のディナーイベントをメインに考えている人などが多くいます。似たようなケースを聞くことがあるのがMBAで、一部の学生は勉強と授業は必要最低限の時間に抑え、学生間や教授、出入りする企業関係者とのネットワーキングにより多くの時間を費やすとのことです。私もコンテンツへの完ぺきな代替アクセスが用意されているTech Crunch Disruptでは、ほとんどセッションに出ずに会場で色々な人に会ったり話しかけるなどの「ナンパ」をしています。
会場内の雰囲気。至るところで会話・商談が行われており、イベントAppを通じて容易にマッチングが可能
CESやDisrupt、そして現在リスボンで行われているWeb Summitに大量に日本から参加者が押し掛ける状況と比較すると、APEC CEO Summitの状況は寂しさというか違和感を覚えます。しかし、よくよく考えてみると上記のような多くのイベントにおいて日本の参加者はCクラスというよりも部長職、せいぜい執行役員レベルまでの参加者が多いと思われます。それはやはり目的がレポートだからでしょうか。イベントレポートを書くのであればCクラスよりも部長以下の社員のほうが良いというのは私も完全同意です。一方で、もし人と会うのであれば、そこは本来であれば意思決定が出来る人、会社の経営をよく知り看板を背負うにふさわしい人が望ましいでしょう。
「目的」意識が強すぎると世界は広がらない!?
新しい方と会って話すことが楽しいということもありますが、予定調和や目的のない会話のほうが自分の世界を押し広げるという経験から来る感覚があります。まず不特定多数と話すため、普段の仕事では絶対に接点がないような方と会う機会が増えます。例えば、今回お会いした方の中には東南アジアで不動産事業を展開するタイの女性経営者、ヨーロッパ企業の中国法人の代表を務める推定70歳越えの方、APECのスポンサー企業にも名前を連ねる米国上場企業の事業開発責任者、100か国以上の国から米国留学を斡旋する企業のCEOなど。セッションで隣の席になった、ランチでたまたま同じテーブルに座った、ディナーパーティで目が合ったから話しかけた、などきっかけは様々ですが、別に弊社のサービスを売り込むことを目的に話したわけではありません。(もちろん、そんな下心がゼロではなかったと思いますがw)
個人的に一番楽しい瞬間は、世の中に洪水のように溢れる情報をそれぞれの人がどこにアンテナを張って捉え(Input)、それをどのように整理・解釈して考え(Processing)、どのように語るのか(Output)、という部分です。これを生まれや育ちが全く日本人と異なる人たちとやると非常に刺激的なのと同時に、セレンディピティが生まれるというか、これまで自分の思考プロセスだけでは決して至ることがなかったと思われる発想や気づきに至ることがあります。
このような偶然の出会いや刺激が目的、という意味で目的は非常にクリアなのですが、イベントに対して具体的な「ビジネス成果」を求めているわけではありません。自身でこれをKPIとしているわけでも、数を追っているわけでもありませんが、強いて言えばなるべく多くの新しい人に会うように努力はしていますし、海外の方でこのような動き方をしているなぁと感じる方は結構見かけます。
一方で、偏った見方かもしれませんが、日本から海外イベントに参加される方の多くは代替可能な「コンテンツ」部分に比重を置いているような印象を持っています。理由は様々かと思いますが、1つに「チームで参加する」場合は要注意かと思います。例えば英語が母国語の方の場合、チーム参加してもコミュニケーションが英語のため、外の人も理解でき、そこに参加が容易な一方、日本人が固まると日本語となり、排他性が強まります。また、日本人は元来の傾向として「類似性を好む」という特徴があり、違いよりも同じ部分を相手の中に探したりします。これがチームで参加しているところは殊に強調される印象を持っています。
次回ですが、(おそらく) APECトピックの最終回となります。
グローバルビジネスの社交界の話、そしてグローバルの空気を読めなかった日本が犯した過ち(!?)について書きたいと思います。
著者: 大山 哲生
役職:Skylight America Inc. CEO
略歴:大手旅行会社を経て、2007年にスカイライト コンサルティング参画
アメリカ・インドなど海外コンサルティング案件や事業開発に数多く携わった経験を活かし、現在はSkylight Americaの代表として海外関連のコンサルティング事業拡大をリードする。得意領域はプロジェクト型での事業リードと新規事業開発。